たとえばあなたが



父が、革張りのソファの下にうつぶせで倒れている。



すぐそばで灰皿がひっくり返っていて、タバコの灰が散らばっていた。



少女は、その体から目が離せなくなった。



セーターが、ちょうど背中の真ん中あたりから円状に、真っ赤に染まっている。



正月の初売りに出かけたときに、母が選んで買った春物のセーター。



薄手の生地で、クリーム色のそれを広げて、



『春らしい、いい色だ』



と、父も気に入っていた。



その淡いクリーム色は今、袖にしか見られない。



「…パパ」



少女はもう一度呼びかけた。



今度は、きちんと聞こえた。



でもそれは、どこか他人の声のような響きで、遠くから聞こえるような気がした。




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