たとえばあなたが



「……れないんだもん…」

「え?」

声が小さくて、聞き取れない。



メインのパスタがテーブルの中央に置かれ、ガーリックのいい香りを漂わせても、萌は顔を上げなかった。



「千晶、何も話してくれないんだもん…」



やっと顔を上げたと思ったら、今度は目に涙を浮かべている。



「ねえ崇文くん、どうしてだと思う?」



崇文は、萌の勢いに一瞬たじろいだ。



(ああ…)

崇文には、思い当たるフシがある。

千晶があまり人に心を開けない理由を、誰よりも知っているつもりだ。

萌にならもしかして、と期待を寄せないでもなかったが、やはりダメだったようだ。



つまり、萌が珍しく自分を誘ったのは、このことを相談したかったからということか。



(ほらな。だからあまり期待しすぎないほうがいいって思ったんだ)



崇文は短く息を吐いて、天井を見上げた。




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