たとえばあなたが



このとき少女が冷静だったなら、もう父が生きてはいないことは容易に理解できただろう。



ところが彼女は今、錯乱状態にあった。



父はどうして倒れているのか。



あの血は何なのか。



なぜこんなに大勢の警察官が家にいるのか。



同じ疑問ばかりを頭の中で繰り返す。



突っ立ったままの少女の後ろ姿を、追いかけてきた警察官が気の毒そうな眼差しで見ていた。



やがて少女はゆっくりと、今度はキッチンへ向かった。



さっき少女を止めようとした大人たちは、もう無理矢理少女の腕を引っ張ることはしなかった。



少女を見守るように、ただ後ろから黙ってついて行く。



彼らの瞳の奥には、覚悟のような光が宿っていた。



なぜキッチンに来ようと思ったのか、少女にもわからない。



母の姿を探し求める本能が、ここに来させたのかもしれない。



(ママ…)



そしてその予感は、何よりも残酷な形で、現実となった。




< 21 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop