たとえばあなたが
木村一家は、松田の憧れだ。
いつか自分も、やがて妻となる中西礼子と一緒にこんな家庭を築きたい、と心から願っている。
「きっとすごい人混みですから、事故にだけは気をつけて行って来てください」
と、松田は入場券をテーブルに置いた。
「ありがとう。…ところで松田」
木村はタバコに火をつけて、テーブルの隅にあったガラス製の灰皿をたぐり寄せた。
「今日お前にわざわざ家まで来てもらったのは、わけがあってな」
「…?」
おかしいな、と松田は思った。
今日来たのは、仲人の礼を言うためであって、木村に呼ばれたわけではない。
結婚については、日取りが決まるまで会社の人間には知られないようにしている。
そのため松田のほうから木村にお願いして、他人の耳のない木村の自宅へやって来たのだ。