たとえばあなたが



千晶が戻ると、デスクに1枚のA4サイズの紙が置かれていた。

マグカップを置いたその手で紙を拾い上げてみると、それは絵画の展示即売を手がける会社との新規契約書だった。



「さっき部長が置いていかれました。アートフィールと契約切ったんで、その後釜って言ってましたよ」

隣の席の同僚が教えてくれた。

「ふぅん。ここに決まったんですね」

聞いたことのない名前の会社だけれど、さすがに礼子のような社員はそうそういないだろう。



(あそこじゃなきゃ、どこでもいいわ)

千晶のデスクに資料が置かれたということは、早く展示会の企画を立てろという暗黙の命令だろう。

とりあえず相手先に挨拶の電話をしようと会社用の携帯を手に持ったとき、

ピリリリリリッ

と着信音が響いた。




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