二片の桜
土方とはまた異なる威圧感にごくりと砂柚は息を呑んだ。
震えそうな唇をきつく結び、自然に弧を描く。
「こんばんは。私、可愛砂柚と申します。」
場違いでもいい。
相手が自分を疑っているのなら信じてくれるまで私は笑う。
「―――そうか、可愛殿と申すのか。
私は新撰組局長近藤勇という。
すまなかったね…トシは怖がったろうに。」
「なっ…!近藤さん!?」
「――――歳。」
近藤に戒められ土方は口を噤んだ。
顔は不満気である。
「所で、私も聞きたいことがある。可愛殿は、どこ出身なのかな?」
ぱぁっと顔が一段と明るく輝く。
「は…はい!」
『東京です!』
と続けて言おうと思った。
しかし、砂柚の言う東京はあくまで今から約150年後の江戸の地のことである。
刹那。
砂柚の顔からサァーっと血の気が引いていった。
帰る家など存在し無いというに。
黙り込んだままの砂柚を見て土方が嫌な笑みを浮かべた。
それを危険信号だととった瞬間、砂柚は目を見開く。
「私…………私、家が分からないんです!」
咄嗟の言動だった。
「い、家が分からない?それは、またどうして。」
「本当に分からないんです!何もかも…。私が話せるとすれば名前くらいです。
行く宛も無かったから道端にしゃがみ込んでいたんです!」
信じてほしい一心で真っ直ぐな瞳で近藤を射すめる。
砂柚の瞳は、近藤の返答をまだかと不安に見つめていた。
支離滅裂な話だと思う。
けれど、本当に分からないのだ。
自分が何故幕末にいるのか。