王国ファンタジア【氷炎の民】ドラゴン討伐編
「電撃や。得意技はそれやな」
「得意技ね」

 まだ隠し玉を持っているような様子ではあったが、サレンスは敢て問わない。彼には彼の事情があるように彼女にも事情はあるだろう。

「それはドラゴンに通じそうか」
「鱗が金属製だと通じへんかもしれへんな。電は流れやすいほうに流れるんや。鱗を伝って放電されよったら肝心の中身には衝撃を与えられへんやろな」
「どのみち、あの鱗をまず何とかする必要がありそうだな」
「あんさんの炎の力はどうなん? 灼熱の業火、鉄でも熔かすんやろ」
「近寄れればな。しかし、それがそうもいかないようなんだ」
「なんでなん?」
「あいつに遭遇したとき生臭い臭いがした。ちょうど卵が腐ったような」

 と、言いながら、彼は本を開く。

「ここだ。硫化水素。火山や温泉で発生が確認できる有毒な無色の気体。腐卵臭あり。
水に溶けて酸性。空気より重い。引火性あり」

「ドラゴンブレスの正体なん?」

「かもな。だとしたら、火気厳禁なのはもちろんだし、うっかり近寄って毒に当てられるのも勘弁したい。ドラゴンの頭上か風上から近づく必要があるがあいつは翼を持つ。上空から来られると厄介だ」

 サレンスがドラゴンと遭遇としたのは二度。一度目は頭上を通り過ぎただけで、二度目はすでに大火の中だった。今になって思えば何とか無事だったのは幸運だった。
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