その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
 そんな私が憂鬱さを隠しきれる訳もなく。


「先輩、注文しないんですか?」


 周囲の視線が、痛々しい程に突き刺さってくる。それが意味するものは恐らくこのルックスのレベル差なのだろうけど、私は悪くない。

 私もせめて、猫を被ってきゃっきゃふわふわとしていられれば、もう少し見目もいいのかもしれない。それが不機嫌丸出しの平凡女、相手はルックスだけならそこらの芸能人よりは上と言える程の男と来れば、気遣うその男の方が格段に印象がいいのは当たり前だろう。均整がとれていないどころの問題ではない。


「…いい」

「奢りますよ?」


 その一言に、思わず口を滑らせそうになる。駄目だ、ここで借りを作っては、後からどんなことになるか。既に面倒事に巻き込まれているとはいえ、これ以上ことが大きくなるのは嫌だ。


「いいから」

「じゃぁ俺はカフェラテで」


 嫌味たっぷりな響きの声に爽やかな笑顔を添えて、彼は言った。ボタンを押して店員さんを呼ぶ。バイトだというのにレベルは職業病で、私が動き出しそうだ。

 しかし、折角喫茶店に入ったというのに何も飲み食いしないのは。現在とても抹茶ラテが飲みたい気分なのだけど。

 別に注文したからといって彼に奢ってもらうということが決まる訳ではなく。自腹で払えばいいかと、注文することに決めた。

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