大空の唄


耐えきれなくなって叫んだあたしの声は


響き渡る楽器と歓声の音に掻き消される


しかし空の耳にはちゃんと届いたらしい


ピクリと肩を揺らし視線を落とした空は


ほんの一瞬だけ顔を歪めた


何でお前がここにいるんだよ
とでも言いたげな顔の空に
翔くんがしたようにパチンと
ウィンクを飛ばしてみる


また空の顔が一瞬歪んだあと
空は翔くんの方を見た


翔くんも空にパチンとウィンクする


そんなやり取りが可笑しくて
つい笑みが溢れてしまった


空は更に顔を歪めたがさすがプロ


直ぐに気を取り直し
いつも通りの"空"に戻った


『俺、作り笑い嫌いなんだよね』


何故か初めて会った時の
蒼空の声がふと頭を過った


そしてきっと作り笑いだろう
笑顔でファンの歓声に答える目の前の空


本当の蒼空はどこにあるの?


"本当のあたしはどこにいるの?"
自分の過去が蒼空に重なって
切なさが込み上げてきた


最近空が、ふと自分と重なる時がある


あたしは込み上げる何かを
必死に飲み込むと目が合った空に


《がんばって》


口パクで告げた


直ぐに視線を反らした空


「まずはこの曲から…」


でもその顔には一瞬、ふわっと微笑みが見えた気がした

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