大空の唄


気が付けば先輩はあたしの目の前にいて


後退りしようとしたけど後ろは壁だった


先輩があたしを挟むように壁に手をつく


「なぁ、誰のこと
考えてんだよ?

俺じゃ…ないだろ?」


蒼空なんて、言えない言えるわけない


でも、先輩だって嘘つくことも…できない


怖い、先輩怖いよ…


そう思っても、声にはならなかった



『絢音は俺だけ見てろよ!!』


そして


最後に見たのは声とは逆にとても悲しそうな先輩の目


最後に覚えているのは唇触れた柔らかい感触


「しょう…くん」


最後に聞いたのは…


『待ってって、今すぐ行くから』


翔君の優しい声の後ろで聞こえた


『――――っ』


空の歌声だった


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