風花
「…私、散歩の途中だから」
「あ、ごめんね引き止めちゃって」

君もごめんね、とモモの頭を撫でる笑顔は、穏やかで。
まぁ、虐待ってわけでもなさそうだし。
怯えさせないようにそっと子猫を両手で抱っこしながら、手渡した。

「今日はモデルのお礼に家に泊めてやるからな~」
「にゃあ」

…もういいよね。
そのまま立ち去ろうとしたら、慌てたような声で呼び止められた。

「そうだ、これあげるよ」

一枚の、写真。

「僕が撮ったんだ、お礼」
「…いらない」
「そういわず、はいどうぞ」

無理矢理、手に握らされた一枚の写真。

「また会えるといいね」
「…会うわけないでしょ…行くよ」
「ばいば~い」


変な人。
ニコニコして、何も悩みなんかなさそうで。
変な人…



「でも…」

久しぶり、だったなぁ…
おばあちゃん以外の人と、こんなに話したの。
見たこともない、しかも男の人相手に、気づいたら普通に話してた。

「あ、グチャグチャになっちゃった…」

無意識に握り締めてた写真を開いてみると、目にも鮮やかなブルーが飛び込んできた。

「…空…?」

どこまでも澄み切った、穢れのないスカイブルー。
これは、今の人が撮ったのかな…?
あの人の目には、空は、こんなに美しく見えてるんだ…

「クウン…ワンワン!」
「あ、ごめんごめん」

思わず立ち止まった私に、モモが焦れたように吠え付く。


(捨てるのももったいない、かな)


裏には、『Photo By 天』の文字。

「てん…?アイツの名前かな…変なの」



このときは、もう二度と会うことはないだろうと思ってた。
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