ラヴレス











「苦しいだろうに、悲しいだろうに、毎日泣かずに、笑ってくれる」

なにもかも堪えるように、黒い睫毛に覆われた瞳に力が籠る。


「血の繋がらないじいさんばあさんを、お父さんお母さんって呼んでくれる」


硝子を通して廊下に差し込む月光が、「チィネエ」の小さな身体を白く浮かび上がらせていた。




「血の繋がらない私を、お姉ちゃんと言って、慕ってくれる」


顔を上げた彼女に、キアランは足元から地面が崩れ去るような感覚に襲われた。

全身に薄い氷の膜が張り付き、今この瞬間、それらに音を立てて皹が入り、ボロボロになって足元に転がるような―――。






「こんな幸せなことは、ない」


彼女が噛み締めた「愛」を目の当たりにして、キアランは酷く、胸を焦がした。


あまりに無責任な言葉を発してしまった。

この「家」のことも、「チィネエ」のことも、「子供達」のことすら知らない人間が、視察に来ただけの、『チフミ』を見つけられなかったことで、支援すらできない自分が、口を出していい問題ではなかった。




(傷付けた―――…)




後悔しても、もう遅い。








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