ラヴレス
そうして呆然と立ち尽くすキアランを前に、気持ちを鎮めるように溜め息を吐いた「チィネエ」は、すぐさま背を向けた。
「…もういいでしょ。あんたが何しに来たか知らないけど、用が済んだなら帰って。……殴って、ごめん」
謝罪と共に、そのまま奥の闇へと消えようとする。
キアランは叫んだ。
「…待て、チィネエ!」
ぴくり、と「チィネエ」が立ち止まる。
不可解そうに振り向き、眉根を寄せた顔で。
「…誰が「ちぃ姉」だ。あんたの姉ちゃんになった覚えはない」
不機嫌に発せられた言葉は、キアランには些か理解不能だった。
日本語は堪能だとしても、言い回しや突っ込んだ日本語会話には慣れていない。
「私の名前は、チ・ス・ミだ、このボケ」
キアランは今度こそ絶句した。
―――『チフミ』!