僕の初恋(仮)


ドアがカラカラと音を立てて開いた。


冷たい外の空気が部屋に流れる。



「こんにちは」


入ってきたのは生徒ではなく、黒いスーツを着た女の人だった。


その人は佐藤先生を見ると、えーっと、と少し戸惑いながら、


「お疲れ様でございます。今回も冬期講習でお世話になります、宜しくお願いします」

と丁寧に挨拶をした。


「あ、もしかして水野先生?」

「あ、はい、そうです」



・・・・・。

衝撃だった。

てっきり「水野先生」は、怖い男の敏腕講師と想像していたから。



「夏期講習もして貰ってるから、手順は分かります?」

「はい、大丈夫です」

「うん、じゃぁ、この子を宜しく」


佐藤先生にポンッと肩を叩かれると、水野先生は俺に視線を向けてきた。


「あ、水野です。宜しくお願いします」

落ち着いた、撫でるように滑らかな声だった。



普段話した事のない若い女の人に、俺はかなり緊張をした。

目を見れず、軽く頭を下げて、小さく短く呟いた。


「お願いします・・・」


隣で佐藤先生がにやついていた。




「じゃぁ、2番ブースにいますね」


表を確認した水野先生は、俺にそう声を掛けて席に向かった。





「良かったな~、若い美人の先生で。緊張したか?」

「うるせーし!」

「まぁ、無理もない。お年頃だもんな~」

俺は返事の代わりに肩パンチを見舞ってやった。


「イタタ、水野先生を困らせんなよ~」


俺は自習室に荷物を取りに戻った。



先生を困らせるとしたら、俺じゃなくて結城だし。



< 15 / 50 >

この作品をシェア

pagetop