愛しのマイ☆ドクター
歌い始めた美羽の姿は

マデルンハイト症候群のことなど

これっぽっちも感じさせないくらい

力強かった



それにその歌声は

病気になる前と

なんら変わることなく

可愛くハツラツとしていて

僕の胸をせつなくさせた



少しのフレーズしか聴かなかったけど

この歌は売れるだろうなと

素人の僕にさえ予感させた



結局レコーディングは

夕方まで続いた



『先生 終わりました』



と社長さんが自ら

別室の僕らに声をかけに来てくれたとき

目が潤んでいたのを見た



僕は持ってきていた

車椅子を広げて

美羽を迎えた




彼女は倒れこむように

車椅子に座った



『お疲れさま・・・』




『先生・・・ ありがとう・・・』



美羽はそれだけ言って

目をつむってしまった




帰りの車の中でも

美羽は一言も口をきかなかった




病院に着くと玄関前に

また多くの人が集まっていた



老若男女と形容するのがぴったりくるくらい

若い男の子や女の子から

お年寄りのおじいちゃんやおばあちゃんも

やってきていた



でも美羽は

今度はもう彼らに笑顔で応える

余裕もなかったようで

僕が押す車椅子に運ばれて

病室まで眠ったように戻った
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