夢の住人
ボクはこれは、チャンスだと思いながら、たどたどかしかったが敬語をやめた。
「ねぇ、なんて呼べばいいかな」
「えっ、静子でいいよ」
「いやいや、それは、さすがにできないよ、やっぱり、静子さんって呼ぶわ」
「じゃあ、私は一也って呼ぶね」
ドキッとした。
女性に呼び捨てで呼ばれるなんて、怒鳴る時の母親ぐらいしか、体験した事がない。
新鮮だった・・
大抵、周りの友達はカズくんとか、名字とかだったので・・
カズヤって!!
何!What?みたいな!!
その後のボクは授業後の休み時間のように、夢中で喋り出した。
呪縛から解き放たれたボクを迎えてくれる至福の時間。
楽しかった?
いやいや、そんなもんじゃないっす!
楽しすぎて言葉にはできない。
でも、ボクたちの関係は友達。
それはこれから、ずっと揺らぐ事はないだろう。
ボクは彼女に思い切って聞いてみた。
「静子さんの好き人って、どんな人?」
それまで、とても明るく会話をしていた彼女の声のトーンが少しだけ下がった気がした。
彼女の話によると、その彼は20歳の社会人らしい。つい、2ヶ月前まで付き合っていたのだという。
デートは、もっぱら、ドライブだったそうだ。車種はクレスタ。
それが突然、音信不通になり、自然消滅的に会わなくなった。
別れといった、別れもなしに付き合いが終わったのだと言っていた。
名前は葛西さんと彼女は呼んでいた。