夢の住人
ボクは彼女の失恋話を聞き終えて


「きっと、また、付き合えると思うよ。だって、まだ、嫌いになったって、言われた訳じゃないだろ?だったら、もう少し、待ってみたら、俺でよかったら、応援するよ」


彼女は電話越しで、泣いていたんだろう・・

鼻をすする音が微かに聞こえていた。


「ありがとう、でも、もう、いいの、、もう、十分待ったから」


「よくないよ!そんなのぜんぜんよくないよ!!」


感情的になっていた。

「だって、静子さん、まだ、好きなんだろう?連絡とかは、こっちから取れないの?」


「取れないよ、そんなことできない・・ 」


それ以上、ボクは何も言えなかった。


20時45分からかけ始めた電話は、もうすでに、23時になる。


初めて沈黙がボクらふたりを包みこんだ。

ボクは沈黙を破り


「でも・・それでも・・応援しているから。」


そうだ、ただ、彼女の力になりたい。


そこに恋愛感情は存在せず、どちらかと言うと博愛的な感情に近かった気がする。


このままの状態で電話を切る事が嫌だったボクは、最後になんとか、彼女を笑わせたかったのだろう。


「話変わるけど、この前さあ、うちの高校の隣にゴルフの練習場あるじゃん、そこで友達とさ、おっさん達が打つたびに、ナイスショット!!って、大声出してたの」


「え?なにそれ」


彼女も沈黙を破った。

「それでさあ、そうやって、おっさん達をからかってたわけ、そのうち、マジギレしてきてさあ!追いかけてこようとするんだもん。慌てて、逃げたね」


彼女の笑い声が聞こえてきた。


「バカみたい、一也って、、、」


「あれ、俺、馬鹿だよ、知らなかったっけ?」


強引とは、わかっていたが、必死にピエロのように振る舞って見せた。


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