群青ノ春
夏のまんまな夕暮れ時のゾウさん公園には、まだ夏を忘れられないように蝉が小さくヂリヂリと鳴いていた。






「暑っい!ちょっと休憩!」


奈緒はゼイゼイ言いながらベンチに倒れるように腰掛けた。






「おいー、お前俺より二つも下だろ?ダウンするには早ぇーよ」







そうは言っても奈緒は今年で28歳だった。



若いつもりではいるものの、年々体力が落ちているのは、情けないが真実だった。



二つ年上で、今年30歳になる陽登があんなにも元気な事が奈緒には謎だった。





すると突然、
「あ、奈緒ここでちょっと待ってて」



陽登は何かを思い出したかのように荷物を全部抱えたまま、家に向かって帰って行ってしまった。






その場に取り残された奈緒はようやく息が整ってきたので、ベンチに座り直して、

改めてゾウさん公園からの景色を見渡した。





暑い暑いとは言うものの、
九月の夕暮れは、夏色の空一面に水で薄めた朱い絵の具をこぼしてしまったようにじんわりと秋の空が滲んでいた。




鼻先がツンとなって、奈緒は泣きそうになった。





考えなければならない事がたくさんあるけど、
気づかないフリをしてる。






…なのに一人になってしまえば考えざるを得ない状態になって。

それが苦しかった。





最近はその頻度が多くなっていた。
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