愛の雫
あたしを抱き締めているのは、誰よりも大嫌いな人…。


あたしの居場所を奪った、最低な人…。


それなのに…


「……っ!良かった……。希咲ちゃんが無事で……本当に……本当に、良かった……」


呪文のようにそう繰り返す陽子さんを前に、あたしはこの腕を振り払う事が出来なかった。


それはきっと…


あたしを抱き締めている陽子さんの腕が、大きく震えていたから…。


呆然としながらもその事に気付いた瞬間、鼻の奥にツンとした鋭い痛みを感じた――…。


< 515 / 830 >

この作品をシェア

pagetop