それでも君と、はじめての恋を
「あー……じゃあ、俺ら戻る」
逃げるように立ち上がったモモの裾を掴んだのは多分無意識だったけど、離そうとは思わなかった。
まだ頬が熱い。
それでもジッとモモを見上げて、言われたい言葉を望んでみる。
「モモ」
「……」
「もう1回、言……っ!」
ガッ!と急に頭を掴まれて、驚き過ぎて言葉を失った。
眉を寄せるモモはあたしを見下ろして、あろうことか自分を見ないようにあたしの顔の向きを無理矢理変えてくる。
「……ちょっと?」
「……」
あたしが今見てるの、ソファーの背もたれ。あと、5メートルほど離れた場所に座ってる生徒の、青ざめてる顔。
「モモ? ねえ何してるの?」
「……」
勘違いされてるから。桃井寶ってやっぱり危ない人とか思われてそうだから。
「頭鷲掴みにするの禁止って言ったでしょ!」
モモの手を掴んで頭から引き離すと、驚いた瞳と視線がぶつかる。
モモは放り出された自分の手を見てから、ムスッとするあたしに困った顔をした。
「ふんっ!」
「ふんって」
そっぽを向いたあたしと顔を見合わせることになった葵の突っ込みに反応出来ずにいると、クシャリと少し乱暴に大きな手が頭を撫でる。
反射的に振り向けば、手を引っ込めたモモがすでに体を反転させていた。
「……おやすみ」
それだけ言ったモモは森くんとロビーから去ろうとして、あたしは思わず身を乗り出して叫ぶ。
「もう1回言って!!」
足を止めたモモの顔は、今日1番の笑顔だった。
きっとあたしがもう1回と望む時は、嬉しかったからだと気付いてるんだと思う。
それなのに可愛いともおやすみとも言わずに、笑って手を上げただけのモモはなんて、ズルい。
「……浴衣姿、撮りたかったのに」
口を尖らせてソファーの背もたれに顎を乗せたままモモを見送るあたしに、葵は「まだ顔赤いよ」と、笑った。