それでも君と、はじめての恋を
「いや、渉と桃井って喧嘩らしい喧嘩したことないよなーと思って」
「えっ! そうなの!?」
「んー……まあ、そうかも」
いつもあたしが一方的にバカとか騒ぎだして、モモが驚いて困った顔をするくらい。
「ていうか、デートらしいデートもこの前初めてしたからなぁ」
喧嘩なんかしてる場合じゃないっていうか、喧嘩する暇もないというか。
デートのことを思い出して頬を緩めるあたしを見る目が、葵以外驚きに満ちていたことに気付いたのは数秒遅れてからだった。
「え? ゴールデンウィークにデートしたって言ってたけど、まさかそれが初?」
「嘘だぁ~! 2月から付き合っててそれはないって!」
ケラケラと笑うみんなに恨めしげな視線を向ければ、静寂が訪れる。
「え、マジ……?」
「モモは忙しいんですぅーっ!」
「それもあるけど、大半は渉が浮かれ過ぎなのが原因ね」
付け足すように言った葵に、あたしは「ウッ」と情けない声を出した。
もうみんな、あたしが経験豊富だったわけではないことも、モモが初恋だったってことも知ってるわけだけど、浮かれ過ぎだってことくらい自分でもよく分かってる。
「まさかとは思うけど……デートって、デートだけ?」
「……そうですけど」
「付き合って、手を繋いで……はい、そのあとは?」
「……まだですけど」
衝撃を受けたかのような表情をするみんなに、あたしは眉間に眉を寄せる。
だから、昨日も逃げたっていうのに。
「あの桃井寶と付き合ってんのに!?」
「ドSに見えて硬派なの!?」
「モモはモモでしかないのっ!」
吹き出した葵が視界に入り、あたしはムキになってよく分からない反論をする。
実はモモが不器用で照れ屋だなんて言っても信じてくれなそうだと思ったから。
本当はモモのそんな姿を秘密にしておきたいだけなのかもしれないけど。