それでも君と、はじめての恋を
「まあ急ぐもんでもないし、自然とするでしょ。桃井も一応男なんだから」
葵の言葉に頷きつつも、果たしてモモは男らしさを見せてくれるのかと考えればそれはまた別の話になりそうで黙っておいた。
「でもキスするっても雰囲気っていうかタイミングっていうか、ね」
「渉の場合は初彼だしねぇ……慣れってもんがないもんね」
「もういいって! あたしの今の目的はモモの浴衣姿を激写することなのっ」
「えー」とみんなが不満そうな顔をして何か続けようと口を開き掛けた時、ヌッと目の前のテーブルに現われた大きな影。
「おーまーえーらー」
低い唸るような声に横を見上げれば、担任の阿部ちゃんが仁王立ちであたしたちを見下ろしていただけだった。
「いっつまで休んでんだ! もっと自然を楽しめ!」
「安部ちゃんだってダラダラ歩いてたくせに」
「てか、愛でる動植物とか一切見かけなかったんだけど」
あたしと葵が続けて言えば、安部ちゃんは眉を吊り上げる。
「もっと頑張れよ! むしろ今すぐゴールまで全力で走れ!」
「走ったらウォーキングじゃなくなるじゃん!」
「渉の言う通り。早さ競うようなもんじゃないって言ってたの誰よ。課題もないし」
葵が呆れた溜め息をつけば、次々と出てくる文句。
「つまんないよねー」
「ねーっ。教師陣最悪ーって言われまくってるの知ってる?」
「お前らは何か特典がないと頑張れないってか。これだから現代っ子は……」
今時の若者をバカにされたような言葉にブーイングしていると、何なのか分からない音が聞こえてくる。
それはあたしだけではなかったようで、みんな一斉に歩いてきた道に顔を向けた。