それでも君と、はじめての恋を
「……何あれ」
「え? 男子? すごい走ってない?」
周りからもそんな声が聞こえた通り、音の正体は遠くから走ってくる男子たちの声。
叫んでいるみたいだけど、何を言ってるかまでは分からなかった。
「どうしたんだろ。競争?」
「なんの為に?」
友達の言葉を耳に入れながら、目に映るのは色んなクラスの男子たち。
小さかった姿は段々と近付いてきて、あたし達が折り返し地点に到着して30分近くは経っているけど、こんな光景は初めてだった。
「5組の女子ぃ――! ちんたらしてんじゃねえぇえええ!」
「待てお前! クッソ! 女子ども休んでんなよ!」
「1組でハンコもらった奴走れ! さっさとゴールしろ!」
折り返し地点で休んでいたクラスメイトに激を飛ばす男子たちは、我先にとハンコを貰おうと騒ぎだす。
各自渡されていた白紙にハンコを押す役目の教師ふたりは、突如出来た男子の行列に驚いていた。
「ねえ葵、何だろ」
「んー……」
尋ねたと同時に見ると、葵は額を押さえてうな垂れる安部ちゃんを見上げて口を開く。
「ねえちょっと、そこの担任」
「……俺は悲しい。実は生徒の素を知る為の極秘計画だったんだゼ、ってカッコつけたかった」
「もう熱血ぶるのやめればいいのに」
「どこのどいつだバラした担任は! 傍観者決め込むんじゃなかったのかクソッ! 恥を知れ!」
この人さっき、うちらに今すぐ走れとか言ってたよなぁ……と思いながら、どうやらこのウォーキングには何かあるらしいことを悟った。
何が極秘なのか聞こうとした時、背後から聞こえた「桃井走れ!」という純の声にあたしの目は従順にピンク色を探し始める。
「いいから早くぅ! 何も言わずすました顔で出してくるのがお前の役目なのっ!」
純のくせにモモに命令すんな!