それでも君と、はじめての恋を
「あと小声でブッ飛ばすって言ってくるとなお良し!」
「森くんまで何言ってんの!?」
思わず口に出たと同時にモモの姿を捉えると、森くんがあたしの声に気付いて、その背後で純がモモの背中を押していた。
「も〜ダメ疲れたぁ……誰か飲み物ちょうだい〜」
男子の行列に混ざったモモを視界に入れながらも、フラフラと近付いてきた純と息を乱す森くんに疑問を投げかける。
「ねえ、急にどうしたの?」
「あれ、1人ひとりハンコと一緒に到着時間も記入されたでしょ。ゴールにも同じのあるらしくて。……で、実は各クラスの折り返しとゴールの平均到着時間出して、その早さを競うってやつだったみたい」
ゴクゴクと葵の飲み物を飲む純の代わりに森くんが行列を指差して説明してくれたけど、まだ意味が分からなかった。
「早さ競うゲームじゃないんでしょ?」
「実はって言ってるじゃぁん。景品があるんだよ。ね、安部ちゃ〜ん」
「「「景品……?」」」
いつの間にかベンチの端っこに座ってあたし達に背中を向けていた安部ちゃんは、ゆっくりと顔だけで振り向く。
「それ、誰から聞いた」
「ん〜と、4組のやつらが言いだしたからぁ、岸元? 安部ちゃんと同期で化学担当の」
「やっぱアイツか……あの腹黒……だから嫌いなんだ、クソ……これだから理系ってやつは……」
「担任と岸元の因縁はどうでもいいけど、景品って何?」
そう聞く葵だけど、すでに周りの生徒がダダ漏れさせている。
「最新ゲーム機!?」
「えっ!? テレビ!?」
「学食全メニューのタダ券もらえるらしいよ!」
「商品券もあるって!」
「……まぁそんなとこ〜」
自分で言うより早いと思ったのか、聞こえた声に便乗して笑った純。
あたしや葵は顔を見合わせて、そんなバカなと思いながらもいやらしく口の端は上がっていた。