それでも君と、はじめての恋を
クラス全員の平均で競うなら、せいぜい全員分のジュースとお菓子くらいが妥当だとは思っているのに期待してしまう。
正直、昨日から大したことはしてない割りに林間学校の費用は安くはなかった。
かかりすぎじゃない?と感じる程度には、お金をとられた。
「テレビ……」
「商品券……」
ゆらり、ゆらりと。
ひとり、またひとり席を立つあたしたちの眼は輝いてるのか殺気立っているのか。
クラス全員分に最新ゲーム機や学食全メニューのタダ券なんて準備できるはずがないけど、何かが貰える可能性があるなら頑張る価値はある。
「まあとりあえず、クラスでの優勝狙ってみようって話なんだよね」
森くんがまとめに入ったことで、あたし達はすでにゴールへ向かう準備は万全だった。
「俺もう疲れたからぁ、ここでちょっと休むイッタァ! 何すんの葵ぃ〜!」
「ふざけるな走れ。足早いでしょ」
振り下ろした拳をもう一度掲げる葵に、純は「待った!」と両手を顔の横へと上げる。
「ここにいる色んなクラスの女子ぃ、ざっと見て40人はいるじゃん?」
「キモイ。自惚れんのも大概にしろ」
「一度に相手にできるのってさぁ、俺しかいなくな〜い?」
ニコッと可愛い笑顔を作る純に、葵もあたしも溜め息しか出ない。
「勝手にすれば」
「言ったからには出来るだけ食い止めてよね!」
「え!? 冗談抜きでできんの!?」
森くんの驚く声に「20人は確実にイケるよ」と教えてあげると、葵は話し込んでいた友達から紙を受け取り始めた。
「渉もハンコ押した紙ちょうだい。絶対本人じゃなきゃいけないってルール聞いてないし、一応」
おおう……本気だ。葵、目が本気デスネ!
「あたしも頑張ってゴールするから!って早!」
紙を渡した瞬間、びゅんっ!と風を切って走って行った葵の早さと言ったらもう……。
さすが中学時代、陸上部の長距離選手だっただけのことはある。