それでも君と、はじめての恋を
無駄にドキッとしてしまったと思いながらも程良く筋肉質なモモの腕を見ていると、暑いのか脱いだジャージはモモの手で揺れていた。
「……持ってようか? ジャージ、邪魔じゃない?」
「……」
モモは少し考える素振りを見せてから、ジャージを差し出してくる。
「ありがと。……森」
ううん、と言う暇もなく受け取ると、モモは森くんと意思の疎通を図った。
「んじゃ俺ら先行って好タイム狙う! とりあえず女子も一応できるだけ早くゴールして! 無理はしなくていいからーっ」
森くんも同じようにTシャツ姿になると、ジャージを腰に巻いてモモと一緒に走って行ってしまった。
あたしはモモのジャージを持って走りながら、暫くボーッとモモの背中を眺めていると話し出す友達4人。
「ねえ……ちょっと森って良くない?」
「アンタ彼氏いるじゃん」
「あたしも結構好きなタイプかもー。今ちょっと、ときめいた」
「マジで!?」
森くんの株が急上昇の中あたしはすでに息が上がっているわけだけど、楽しいからゴールまで頑張ろうと思った。
「ねねっ、渉! 森って彼氏と仲良いの?」
「んー。ハハッ! 仲良いと思うよっ」
「なんでそんな笑顔なの?」
「やー……見てコレ! モモのジャージーッ!」
走りながら「キャーッ!」とジャージを拡げて見せるあたしはアホ丸出しの笑顔で、「それだけ!?」と言いながらみんなも笑っていて。
何より景品狙いでも何でも、純と森くんと協力して折り返し地点まで来たモモが。
あたし達女子の紙も持って先に走って行ってくれようとしたモモが。
森くんと再びゴールを目指していったモモを見れたことが。何でかすごく、嬉しくて。
「絶対優勝したいっ!」
そう本気で思ったから口にした。
高揚して跳ね上がる気持ちが、ゴールへ向かう足も、モモへの恋心も加速させる。
優勝したら、きっとみんな目一杯喜ぶ。
今日は楽しかったって。
このクラスで良かったって。
そしたらモモ、その中できみも柔く笑ってくれるかな。