それでも君と、はじめての恋を
「ちょっと待った! それ、まさか駅ビルでやってるくじ引きぃ!?」
「なんだ池田。そうだけど文句あんのか」
冷え切った空気が凍って亀裂まで入った気がしたのは、3組全員が理解したから。
「ふっざけんな安部ぇぇええ!!!」
「テレビとかゲームは!? くじ引き券って……はあ!?」
「詐欺だ! 要らねえそんなの! 商品券よこせぇえええ!」
先程までの歓喜はどこへやら。
打って変わって安部ちゃんへの不満を口にする3組の生徒に、今度は安部ちゃんが猛反発を開始する。
「ハズレくじないんだから有難く思え! つうか全員分のテレビもゲームも用意できるわけねえだろ常識で考えろバカめ! 欲しけりゃ自分で当ててこいやぁっ!」
「ふざけんな――! ハズレなしのくじ引きなんて大半ポケットティッシュしか当たらねえんだよ! 学食タダ券のがマシだっつーの!!」
言い争う安部ちゃんと3組の生徒を唖然と眺める他の生徒や、止めに入る教師たちで宴会場は急に慌ただしくなる。
……え。何? 結局、あたしが欲しい商品券は貰えないってこと? 自分で当ててこいって…………マジで?
「は~あ……さっすが安部ちゃんって感じぃ~」
「まあウチら学食使わないし、いいんじゃない。別に」
純と葵の言葉に少なからず同意の気持ちを抱いていると、モモがあたしの顔を覗いた。
呆然としていたからショックを受けてるのかと思ったのか、モモの少し心配そうな顔になんでか笑いが込み上げてくる。
「ははっ! く、くじ引き券だって……っ! 喜び損だったね!」
あとから後から込み上げてくる笑いにお腹を押さえてモモに体の右半分を寄り掛からせると、つられるように純と葵も笑っていた。
もう、本当にやってくれる。あんなに必死こいて走ったっていうのに、安部ちゃん最悪すぎる。
でも、こんな結果も悪くない。
あたしも純も葵も笑ってるし、モモだって可笑しそうにしてくれてるから。やっぱり安部ちゃんには感謝しようかな、なんて。
こうして林間学校最後の夜は、予想外の形で幕を開けることになった。