それでも君と、はじめての恋を

▽背中合わせのどつきあい



いつもならあたしがサボるのに、逆だ。


「ダルすぎ……」


夏休みに制服を身に纏って通学路を歩くあたしは、ボソッと不満を口にする。


周りには学校へ向かう生徒がうじゃうじゃいて、慣れているはずなのに今日に限ってうっとうしく感じていた。


正直、登校日なんてどうでもいいという心境なんだけど、葵が行けというから……葵はひとりになりたいのかもしれないと思って部屋に残してきた。


……最悪だ。中間未提出で終わる宿題も、楽しみだった登校日も、朝から高すぎる気温も、晴れない気分も、何もかもが最悪。


『浮気してたんだ』


あの、七尋くんが? 嘘でしょう?


そう笑えたら良かった。勘違いだと、思い過ごしだと、言えたなら良かった。


大丈夫だよ、仲直りしなよって言えたら、どれだけ良かったか。



――バンッ!と音が出るほど乱暴に閉めた下駄箱の扉を見て、今日何回目か分からない溜め息。


あたしが怒っても仕方ない。……仕方なくはない、けど。怒りばかりが湧いて、怒る以外にどうすればいいのか分からない。


「渉」


上靴を履いてゆらりと振り返れば、あたしを見つめるふたつの瞳と目が合った。


「……モモ」

「……はよ」

「おはよー……」


あ、笑えなかった。


ぐにぐにと両手で頬を持ち上げていると、上靴に履き替えたモモが不思議そうにあたしを見下ろす。


けれどそんな視線を遮断するように足を進めたあたしは、モモが隣に並んでも何も言わなかった。


ああ何かもうやる気が……遥か彼方の向こうに……。


「渉おはよーっ!」

「はよー」


教室に辿り着くと、挨拶もそこそこに自分の席へ着く。


……森くんはまだ来てない、と。


「はぁ……」


机に肘をついて顔を覆ったあたしは、昨晩のことを思い返していた。
< 403 / 490 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop