それでも君と、はじめての恋を


「えっと……さっきの話の続き、聞いてもいい?」

「……池田の?」

「うん、そう」

葵には、純から聞いてって言ったこと。

きっと七尋くんの浮気を黙ってた理由が、そこにあるんじゃないかなって思うから。


「……優木の、彼氏だよねって話し掛けて、こんなとこで何してんのって、聞いたらしい」


こんなとこって、やっぱ、純と鉢合わせたことも考えるとホテル街な気がする……。


「だけど向こうは、ただ道に迷ったとか、歩いてただけとか、そんなことばっか言ってて。連れの女は面倒そうにしてて、早く行こうって急かしてた……みたい」


あたしは小さく「うん」と相槌を繰り返して、モモの話を聞いた。


七尋くんは、純の顔を知っているはずだった。葵が学校で撮った写真には必ず純は写っているし、葵も写真を見せたと言っていたことがある。


だけど七尋くんは純を覚えていなかったんだと思う。興味がなかったのかまでは、今となってはもう分からないことだけど。


お前が思ってるようなことはしていないから、葵に余計なことは言うな、と七尋くんは言ったらしい。


葵が話してくれる七尋くんとは、雰囲気が違うって純は思った。


――俺、何度も見掛けてるけど、お兄さんさ、浮気向いてないんじゃない? 


――彼女と同じ制服の子、目に入らない? 堂々と腕組まれてイチャつきながら歩くって、何ソレ。いつ誰が見てるか分かんないスリルを楽しむ人なの?


――それとも、誰に見られようが上手い言い訳出来る自信があるとか? 下手だよ? それに、その連れの女の人もバカっぽいし。そろそろ潮時じゃない?


純はけしかけて暴露させようとでも思ったんだろうけど、その前に七尋くんが殴りかかってきてしまった。


地面に倒れ込んだ純の腹部に蹴りまで入れられてたなんて、知らなかった。


顔と、みぞおち。二か所に苦痛を受けた純に落とされた言葉は、『ガキは口出しすんな』。



「……やめる?」


折り曲げた膝を抱いて、そこに顔を埋めながら話を聞いていたあたしは、緩く首を振った。


「聞く」


ただ少し、ショックを受けただけ。葵が別れを切り出したあと、アッサリと帰った七尋くんに感じていたものが、当たっていたから。


「その次の日、モモは登校してきた純とばったり会ったんだよね?」

「……うん。痣のこと聞く前に、話された」


おどけながら、と付け足したモモがベッドに寄り掛かる音がした。
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