グレスト王国物語
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はあ、はあ、は、はあっ、

迫りくる闇色の刃を、受ける角度を変えて、受け流す。

それでも受け流しきれず、白銀の刃を持つ手に強打したような激痛が走った。

「…どうした、光の女神よ。ずいぶんと苦しそうだな。」

重ねて、突き出すようにもう一撃が繰り出される。

命を欲する、漆黒の刃。

人々の絶望や憎悪は、すなわちそのまま闇の女神の力に変わる。

一方、人々の希望や幸福感が、光の女神の力の糧だ。

だが、彼女はいよいよ疲労し、腕をあげて戦いの構えをとることすらままならなくなり始めていた。

それはすなわち、そのまま人々の心を表わす。

(くそ…、)

歯が砕けるほどに食いしばって、光の女神グレスティアはどうにか体制を立て直す。

これほどまでに、闇にこれほど力を与えてしまうほど、人々の心は病んでしまっているのか。

目くらましの術を使い、なんとか闇の女神と距離を取りながら、それでも彼女は剣を手放さない。

「光よ、もう逃げるのはよせ。分かるだろう?私がこれほどまでにお前と隔たった力を持つと言うことがどういうことか。

奴らはな、自分の外に敵を作り、それを攻撃することでしか、もはや生きては行けぬ。

そういう種族になり果ててしまったのだよ。」

あきらめて消えろ!

掛け声とともに、漆黒の短剣が、光の女神の首を探して闇の手から飛び立つ。

光の女神は、それを刀身をもって受け流す。

そのたびに、手が鈍痛を訴える。

「私が消えるべきか、否か。それはあなたが決めることではない!」

「ならば、できるのか?今のお前の力で、我が唱えた滅びの呪いを打ち消すことが。人間は希望をもってお前に力を貸してくれるか?うん?

できないだろうが!まだ分からぬか!それが答えだというのに!!

法には従わねばならぬ。我は古に奴らが我らと交わした契約通りのことをしているまで。

奴らが選んだ道だぞ。それをなぜ止める。」

「それは、」

蹴りが飛ぶ。跳ねる。

光は身をひねってそれをかわす。

上空では、デダと火の女神が戦い会い、食らい合う叫びがひっきりなしに聞こえている。

(あちらも、押されている…)

「もうあきらめろ、光よ。…我とて、お前と共に作った世界にこんなこと…」

その瞳には、深い闇が、深い悲しみが、溢れていた。

「だがな、契約は契約だ。止めるわけにはいかぬ。それにな、光。

許し合うことを忘れた者は、我がこうしなくともいずれ滅んでしまうだろうよ。」

刃が空を切る。

その一撃だけでも、光の体制は大きく崩れる。

「く…」

光の女神は、それでも倒れずに立ちあがる。

(ブラッド…お願い…)

青白い結界の中で未だ動かぬ男をちらりと見やると、彼女はまた地を蹴った。
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