笑うピエロ店員。
売ってみちゃったりなんかしない?
小さな夕日に照らされた風景。

寂れた商店街。こちらへ近寄るなとばかりに閉じられたシャッター。
枯れきった落ち葉を音を立てて踏み、とぼとぼ家路を帰る人たち。

ぼくはその中を、早まる気持ちを寒さと一緒に堪えながら歩く。
浮き足立ちそうな、あどけない足。
ぼくはあたたかい息を吐き出すと、白くなって消えるということさえ面白くてしかたがなかった。

何度か息を吐き出すと、頬を冷やす秋風を避けるように、マフラーを口元まで被せた。

すると、不意に「なぁ」と声をかけられた。

振り向くと、中高生くらいのお兄ちゃんがいた。

ぼくは直感的に、変だ。そう思った。

変と言っても、出で立ちが可笑しいわけではない。
むしろ、普通だった。

だけど、なぜか「変」だった。
わけの分からない、人間離れしたものが、そのお兄ちゃんから感じられるのだ。

ピエロ。ぼくはサーカスで見た事のある、ヒョウキンで、だけどなんだか怖い、カラフルな姿を思い出していた。

怪しかった。身構える。

「そこの少年」やけに明るい声だった。
「ぼ、ぼく?」
「そうだよ、君だよ。──わぁーお」
お兄ちゃんがあからさまに驚いたことに、ぼくはびくりとした。

「正面から見ても、君実にいいね。どうだい? 今ならサービスするよ。代替品三割増。どう?」

困った顔をしたぼくに、お兄ちゃんは失礼なほどにズズイッと顔を摺り寄せた。
「どうって言われても……」

「おじさんに君の明日、売ってみちゃったりなんかしない?」

ピエロの紅い口が、裂けるように開いた。

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