コッペリアの仮面 -琺瑯質の目をもつ乙女-

薔薇の花弁が散る。はらはらと。
崩れ果てる姿でさえ凛と煌めいて、麗しい。否、醜いのかも知れない。
美は醜。醜は美。全ては環の如く。メビウスの環の様に。
――私は今、錯乱している。統御不可能の事態に陥っているのだ。

「私が、コッペリア……?」

「然う(そう)。君はコッペリア。美しいが故に壊される悲しい運命の人形。私の手に因って現代に蘇った……ね。」

彼の含みが有る言い方、私は好きじゃない。比喩的な表現にも辟易だ。遠回し過ぎて要領を得てない。
私は其れを顔に出さなかった。人前での感情の制御は得意な方、だった筈。強く自我を呼び戻す。

「へえ。じゃあ私は何時此処から出られるのかしら?私は何故此処に召喚されたのかしら。」
私は再び空威張りし、余裕を見せる。澄ました表情は私を一層美しく見せるって知ってるの。

「出さないよ。此処は君を閉じ込める、言わば鳥籠だからね。逃げる様なら翼を手折る。」
彼は薔薇の茎に力を加えた。ぽきり、と清々しい音が聞こえる。

……残酷な事を言っている筈なのに笑顔を絶やさない彼。

怖い。狂ってる。

私は途端に恐怖心が芽生えた。肩が小刻みに震えてるのを感じる。

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