ミッドナイト・スクール
「馬鹿! おかしいに決まってるだろう!」
後藤の言葉に反応したかのように、ハムスターはお互いに噛み付きあい、引っ掻きあう。
狭い水糟の中での壮絶な争い。食いちぎられる毛、皮、肉……。
水槽のガラスにハムスターの血が飛び散る。
数分後。同種の死骸と血の海の中、生き残った一匹のハムスターは、じっとこちらを見たまま目を光らせ続けた。
重なり合って、お互いを暖め合う、可愛らしいハムスターの姿はそこにはなかった。あるのは仲間を殺し、なおも鋭い殺気を放つ小さな悪魔の姿だけだった。
「悠子、行こう」
放心状態の悠子の肩を抱き、後藤はゆっくりと生物室を後にした。
しばらくは口が聞けなかった悠子だが、職員室に踏み込む頃には、ようやく落ち着きを取り戻した。
……ガラガラ。
ドアをゆっくりと開けると、後藤は素早く中を確認する。月の明かりだけが、窓を通して室内を照らす。室内は月の明かりだけにしては、思った程暗くない。
「どう……いる?」
後藤の後ろから、悠子が不安気に尋ねる。
「大丈夫みたいだ、中に入るぞ」
二人は素早く中に入ると、電話を探した。
「あったよ」
一番近くの机に電話を見つけた悠子は、受話器を取ると耳に当てた。
「大丈夫だ、緊がってる」
明るく言うと、悠子は受話器を後藤に手渡した。
「よし、110っと」
椅子を引き出して座ると、後藤は指で机を叩きながら繋がるのを待つ。
後藤の持つ受話器から、呼び出し音が聞こえて来る。
……ツルルルル。
トン、トン、トントン、トン。
隣に立つ悠子の耳に、呼び出し音と、後藤が指で机を叩く音が交互に聞こえる。
ツルルルルル。
トン、卜ントントン。

< 45 / 139 >

この作品をシェア

pagetop