ミッドナイト・スクール
職員室に後藤の平手打ちの音が響いた。
「大丈夫だ。誰も死にはしない。大丈夫だ」
悠子を抱き締め、懸命に優しい言葉を掛ける後藤。
「私、私、うう、ううううっ……」
もうそれ以上、悠子は言葉を喋る事は出来なかった。ただ今はこうやって、後藤の胸で泣く事しか出来なかった。
『死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死! 死!』
……室内には、ファックスの音だけが続いていた。

永遠に続くかと思われる『死」のメッセージ。
校舎内に潜む悪夢はまだ始まったばかりだ。
悠子に訪れた『死の宣告』は、悪夢のほんの一部に過ぎない。
通命を変える事は可能なのか?
それとも運命に従うしかないのか?
路は自分の力で開くしかない。

「みんな遅いですね」
……地理室。イスに座った魅奈は、ドアの方を眺め、何度目かの同じセリフを口にした。
時刻は九時四十五分、行動を開始してから二十分も経ってはいない。
「大丈夫さ、もうじき帰ってくるよ」
ドアの前で見張りをしている信二が振り向き、声をかける。
二人は特にやる事はなかった。この地理室で待機をする事が役割なのだが、そんな仕事あってないようなものだ。
ドア起しに廊下の気配を窺っている信二。そんな信二の後ろ姿を見て、魅奈は密かに抱く思いを膨らます。
「はあー、どうしてこんな事になっちゃったんだろう。せっかく二人っきりになれたのに……」
魅奈は信二と二人きりになれる事をいつも望んでいた。人気者の魅奈には、常に取り巻き集団がいて、学校にいる間で落ち着けるのは、唯一トイレに入っている時間だけだ。
信二はどこにでもいそうな、ごくごく平凡な男なのだが、魅奈にとっては忘れられない恋に落ちた思い出があった。
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