ミッドナイト・スクール
……それは、魅奈が学校に入学して、まもない時の事だった。
放課後、数人の友達と共に昇降口を出た魅奈は、階段を降りた所で一人の男子生徒を見かけた。男は屈み込み、足元の黒猫と遊んでいる。
「あっ、かわいい」
魅奈達、新入生は男に歩み寄った。
「あのー、この猫は野良猫なんですか?」
友達の一人が男に聞いた。
「いや。この学校に住みついててね、今じゃあこの西高で飼っているような感じになっている猫なんだ」
男は振り向くと、にっこりと笑って言った。
その瞬間! 魅奈は心臓に電撃が走ったかのような錯覚を覚えた。なぜ、そうなったのかは今でも分からない。
「この猫、名前ってあるんですか?」
「ネギって言うんだよ」
「あはははは」
「きゃはは、やだあ、可愛すぎるー」
友達は全員が猫と遊び始めたが、魅奈は動きを止めたまま男の顔を見続けた。
別に際立って顔がいい訳ではない。髪形や服のセンスだって並だ。しかし、今まで魅奈に言い寄って来た男達とは、明らかに違った。
……雰囲気。
その男の雰囲気が、魅奈を虜にしたのだ。話す時の口調、間、自然な笑顔。よく男は顔ではなく中身だと言うが、後に考えて見ると魅奈はその言葉の意味を、この時初めて理解したと言えるだろう。
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