異常人 T橋和則物語
         アイドル・魚田みすず




  あの”知恵遅れつるっ禿げじじい””糞ったれ”T橋和則は絶世の美少女に変身した。これは奇跡だった。だが、知恵遅れ、まで治った訳ではない。
 クレイジー和則は、クレイジー和則なのだ。
「すごいわね」ミッシェルは感心して、美少女の顔をうっとり眺めた。完璧な美少女だ。この美少女の外見に、誰も文句はつけられまい。
 セロンも「可愛いじゃないか!和則!」といった。
 当の本人は、きょとんとしたままである。
「でも、美少女になったのに、和則、って名前はどうかしら」ミッシェルはいった。
「そうだな」セロンは頷いた。「あとでいい名前を考えよう。かわいい名前を」
 和則は股に手をやり、「もちろん。キ○タマがない」と、いった。
 セロンは上機嫌だった。
「これで、和則も美少女に変身して、”救われた”んだろ?もう、俺の役目はおわりだ」「そうかしら?」ミッシェルは訝しげな顔をした。「美少女になったからって救われるの?この和則が」
 ふたりはやっと、和則の発作に気付いた。
 和則は手をのばして聖書を机の上にのせた。すると本はバランスを崩し、床に落ちた。またも惨事だ。和則にとって、美少女に変身することも、なにもかも”異変”だった。起きるはずのないことだ。和則は恐怖で麻酔したようになって、落ちた聖書をみつめたまま、全身を痙攣させながら床にむかって小声でせわしなくつぶやいた。つぶやき、つぶやきつぶやきつぶやきつぶやき。セロンにもミッシェルにも一言もききとれない。
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