異常人 T橋和則物語


  魚田みすずこと和則は、長椅子の端にすわって、幼児向けの絵本を熱心にみていた。それから部屋に戻り、テレビをじっと見た。ピザが届き、セロンたちは和則を凝視しながら食べた。和則のピザの食べ方はふつうのひととは違っていた。
 普通のひとなら、端から食べるとか、具が落ちないように気をつけて食べるはずだ。しかし、魚田みすずは違った。ピザを四角に切り、楊子をさして、ちいさな一切れずつ食べるのだ。まさに、異常人の食べ方である。ピザは冷めてしまうし、ソースは固まるし、チーズは岩のようになるが、彼は気にしなかった。まるで流れ作業のように食べた。
 セロンたちはベットに戻った。和則はあいかわらずテレビを見ていた。”日本美少女コンテスト開催!”コマーシャルをやっている。和則はそれをみて、口マネしてにやりと笑った。”美少女”……魚田みすずこと和則の知らない言葉だった。
 画面では、小さな男の子がテレビをつけながら漫画を読んでいるシーンが映っていた。母親は子供にいった。「ひろし!」叱った。「宿題はどうしたの?漫画やテレビばっかりみてないで、勉強しなさい!さぁ、テレビを消して! いますぐ!」
 その命令の声に、魚田は従順に腰をあげ、テレビのところにいき、テレビを消した。彼いや彼女はベットに戻り、端に腰かけた。さっきから何時間も身動きせずに座っていた。同じ場所に。テレビをみつめた。画面は空白だった。
 魚田みすずことクレイジー和則は、テレビがほしかった。
 隣の部屋からは、あえぎ声や、荒い息遣い、吐息などがきこえたが、魚田が興味のあるのはそんなエロティックな声や行為ではなく、隣の部屋のテレビの音だった。愛の行為に熱中して消し忘れたテレビが音を発している。魚田こと和則にはテレビがない。セロンたちにはテレビがある。連中がテレビをもっている。
 魚田は腰をあげると、「ウォーター」と呟いて、隣の部屋までいった。
 
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