異常人 T橋和則物語
「…とにかく完璧だよ」 
 それが、ミッシェルへの彼からの言葉だった。「後は鈴木宗吉議員が死ぬだけだよ」
 しかし、計画は思わぬところで頓挫してしまう。
 鈴木宗吉議員が死ななかったのである。宗吉は本来臆病な卑怯者で、自殺するだけの勇気もない。東京地検が動いて、任意で事情聴取され、賄賂をもらっていたとして、すんなり逮捕され監獄にいれられたのである。
 監獄内では自殺も交通事故も無理である。
「くそったれめ!嘘だろ?!」セロンはミッシェルに目もくれなかった。「そうか、だったら俺が鈴木宗吉を殺しにいく。いいか。俺の天使としての評価がかかっているのだぞ!評価がだぞ!」彼は怒りに任せて、吸殻でいっぱいの灰皿に煙草をねじこみ、すぐまた次の一本に火をつけた。天国は煙草の煙り同様真っ白な世界である。 セロン・カミュは焦って頭痛のする思いだった。そんなとき、天空から男の声が響いた。それは神様だった。
 日本一悲惨な男を救え、さすれば天使業(?)を取り上げない。なんにせよ、今度は失敗出来ない。
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