異常人 T橋和則物語
 ふと、天使仲間で恋人のミッシェル・パルミネッチァがやってきて言った。
 いったいどうして美貌の彼女が、イタリアのカトリックの家庭で厳格なしつけを受けて育ち、事故で死に天使となった、美しい、頭のよい娘が、ミッション・スクールを受けた彼女が、ダメ天使とささやいているセロンとかかわりあうことになったのだろう。
 どうせ死んだなら、天使業(?)をやめ、生まれかわり、まともな仕事と定収入のある男、ことあるごとに「愛しているよ」とささやいてくれる男と結婚することも出来た筈だ。
 何故????
 そうだ、思い出した。無邪気に有頂天になって笑っている男を目にした瞬間、彼女は思い出した。セロン、セロン・カミュ。それが理由だ。
 ミッシェルは長い間、セロンの顔をみて立ち尽くした。疑問の余地はない。彼女がいままで見てきた、あるいは触れてきた男たちの中で、彼こそ一番ハンサムだ。長身、短い髪、がっしりした体躯だが華奢な感じのする三十二歳の身体をもったセロン・カミュ、豊かなブロンドの髪はいくらブラシでとかしても、すぐに巻き毛に戻ってしまう。しかし、いかに彼が美貌とはいえ、参ってしまう程愚かではなかった。ハンサムな男はベッドでもいいし、朝起きて顔を合わせれば「キスしたい」と思う。しかし、芯のない男はやがて飽きてしまうだろう。それはちょうど心地よい旋律でも何度も聴くと飽きるのと一緒である。セロンはそんな男ではなかった。
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