異常人 T橋和則物語
 和則をウォーターマンの始まる時刻にテレビから離してはダメだ。セロンはそう悟った。そうでなければ、和則は爆発してしまう。粉々に破裂してしまうのだ。もちろん、セロンがそういう爆発をみたければ話は別だが。
 魚田みすずこと和則は、ポップコーンを食べながら夢中でアニメをみている。釈子もアニメをみていた。けっこう彼女もアニメ好きなのだ。セロンは携帯を握り、台所へむかった。まったく和則には手をやかされる。お菓子だの、トイレだの、食事だの、テレビだのと、小学生のように手がかかる。四十二歳(今は十六歳の美少女)にもなって、まるで小学生だ。とにかく、早くあの馬鹿からはなれたい。もう、発作はこりごりだ。
 天国のミッシェルに電話すると、彼女は冷たいものだった。また、和則をいじめてるんでしょ?、などというのだ。神様も、まだ和則を救った訳ではない、といっているという。どういうことなんだ! ちくしょう!
 …じつはまだ心の傷がうずいていた。セロンは彼女を心の中へ棚上げし、もっとおおらかな気分であえる日までファイルに綴じこんでおくことにした。腕時計に目をやった。精神科医の診断予定時間まで、あと三十分とせまっていた。
 セロンは大きく息をはいた。「くそったれめ!」電話をきった。
 しかし、精神科医の診断予定時間にも間に合いそうもない。時間がオーバーしたら、和則をみてもらえなくなる。今度、発作がおこったら……。
釈子は和則に笑顔をみせた。和則もわらった。
「すばらしいアニメだったな」真心をこめて和則にいった。「ありがとう釈子ちゃん。もう終りだろ?はやく車に…」
「もちろん」即座に和則はいった。「楽しいコマーシャルと歌がある」
「なにっ?!」
 セロンは癇癪をおこしそうになった。…楽しいコマーシャルと歌だって? ふざけんな! しかし、和則は画面をみつづけた。やっと番組も終わる頃には、診察時間まであと十分となっていた。セロンは怒りを抑えようと努め、足踏みをした。和則そっくりだった。
「ありがとう釈子ちゃん。もう終りだろ?はやく車にのれ。診察時間過ぎたら…もう医者は待ってはくれないんだぞ!」
「ウォーター」和則は呟いた。それは、わかった、という意味かどうかはセロンにはわからなかった。とにかく、ふたりは由美釈子のマンションをあとにした。


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