渇望
家族中の誰も、あたしと口をきいてはくれなかった。


お母さんは口を開けば、勉強しなさい、と繰り返し、リビングに来る時間すら勿体ないと、食事は部屋まで運んできた。


だからあたしは、ドラマはおろか、流行りの歌さえ知らなかった。


家の中でもいじめってあるんだな、なんて今では思うけど。


テストの点が悪かったり、とにかく何か親の気に入らないことをすれば、物置に閉じ込められた。


窓のひとつもない、真っ暗な部屋。


自由の全てを制限され、親の思う通りに育て上げられるロボットのよう。



「あたしは出来損ないなの。」


いつの頃からか、塾をサボって夜の街に繰り出すようになった。


悪い連中と友達になり、そこに居場所を探していた。


けれど、そんなことが親にばれるのは時間の問題で、今度は塾も辞めさせられ、家庭教師がつくこととなった。


お兄ちゃんの友達だという彼は、一見すれば良い人そうという感じ。


でも、待っていたのは性的暴力だった。


あの頃、あたしがどんなに恐怖していても、誰に言ったところで信じてもらえるはずはないし、結局は泣き寝入りしかない。



「頭が使えないなら体使えば?」


それがあの男に教えられたこと。


それでも、恐怖も屈辱も、あの物置に閉じ込められる時間よりはずっとマシだった。


悲鳴を上げていたら、誰か助けてくれたろうか。


看護師の愛人がいるお父さんは家に帰りもせず、お母さんは狂ったように宝石を集めることに必死。


お兄ちゃん達は逃げるようにひとり暮らしをし、実家に戻りもしない。


それがあたしの血の繋がった“家族”だ。


だから誰も信じられなくなり、学校にさえ行けなくなる。



「もう、部屋から出なくても良いわ。」

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