渇望
それがお母さんの言葉だった。


閉じ込めて、世間から抹殺してしまおう、とでも言いたかったのか。


我が家の子供は、どこに出しても恥ずかしくない、この町で人々から尊敬の眼差しで見られる人間でなくてはならなかった。


けれどもあたしはそうではなかったから、だからついには学校さえ行く必要はないというお達しでもある。


あの家庭教師が来なくなった。


勉強さえ取り上げられて、だからもう本当に、何もしなくても良いということ。


どうやったのかは知らないが、気付けば高校も卒業していた。


また議員の叔父さんの協力だろうけど。


死のうとしたって、どうせ運ばれるのは親が経営する病院だ。


だから生きる以外になかった。


けれど、あの家の中には居場所なんてなかったから。


良く晴れた春のある日、あたしは何もかもから逃げるように家を出た。






「あたし、家を出て良かったの。
後悔してないし、もう戻るのも嫌なの!」


唇を噛み締めて言うと、ジュンはわかったから、とあたしをなだめた。


次第に車はあの町から離れゆく。


ジュンにこれ以上心配はさせられなくて、だから泣きたいのに泣けない。



「確かにあの家にはお前の居場所はねぇかもだけど、自分が必要ない人間だとか思うなよ。」


あたし、男に股開くことしか出来ない女だよ?


そう言ってしまいたかった。


あたしにはそれだけの価値しかないのだと、もうずっと前からわかってる。


今も昔も変わらず無力で、自分のことだけで精一杯だ。

< 133 / 394 >

この作品をシェア

pagetop