渇望
それが、アキトだった。


今にして思えば二百万なんて大した額でもないし、ホストをしていた頃は、一瓶それ以上の酒を飲むこともあったのだから。


毎日毎日怒声に怯え、返しても返して追いつかなかった、借金の額。


けれどそれが、母子ふたり分の命の値段だった。


狂ったというならば、どこからだったろう。


母の遺品、戸籍、全てを調べ尽くし、実の父やその家族のことを探った。


自分を産んだ直後に離婚し、すぐに再婚して別の家庭を築いてる、父親。


確かに一番の元凶は高岡だったのかもしれないけれど、でも元を辿れば実父の所為だ。


全てを壊してやろう。


それと共に、祥子を助けてあげなければ。


だから例え何をしてでも生きて、金を稼がなければならない。


どんなに辛酸を舐めようとも、血ヘドを吐いたとしても、苦汁を飲んだとしても、それを糧にしてこの夜の街に溶け込んだんだ。







「それが俺の過去。」


瑠衣の話を聞き終えた時、あたしは言葉もなく涙を流していた。


辛いとか悲しいとか、そんな陳腐な単語では足りない。


ただ、それでも何も言えなくて、訪れた沈黙だけが嫌に重い。



「だから俺はここから離れることはないし、百合を愛せない。」


「わかってる。」


例え誰を抱こうとも、いつも彼の心の中には祥子さんが存在している。



「でも、時々わかんなくなるんだ。」

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