渇望
遠くなっていく意識の端で、それが最後に聞いた声。


どうしてそんな道しか選べなかったのだろう、何で自分が刺されなくてはならなかったのだろう。


徐々にぼやけていく視界の端で、自分の鮮血が床に広がっていく。


熱を失っていく体と、あたたかな血液。


死にたくなかった。


こんな自分を見て祥子が何を思うか、それだけが心配だったのだ。


なぁ、もう一度笑顔が見たかったよ。







病院でひとり目を覚ました時、母は死に、高岡と祥子は姿を消していた。


警察の人や病院の医師や看護師の話をまとめると、こうだ。


母はあの後、自らで命を絶った。


第一発見者は帰宅した祥子で、事情聴取を終えたふたりは、その後、姿をくらませた。


自分が眠っていたのは一週間、その間に母の葬儀は終わっていたと言う。


ニュースにもなっていたらしい。


けれど、全てを失った喪失感で、入院中はベッドから動くことはおろか、喋ることも出来なくなっていた。


引き換えに唯一残ったのは、腹部の傷。


祥子はもしかしたら自分を責めているかもしれないし、高岡に無理やり連れて行かれたに違いない。


けれど、探し出そうとしたが、アテはなかった。


そこで戸籍を取りに行ったところで、意外な事実を知ることとなったのだ。


実の父が生きている。


更には再婚していて、腹違いの弟までいたということ。

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