渇望
第五章−喪失−

選んだ答え

いつの間にか瑠衣とあたしは、互いに気を遣い、相手に対して必要以上に優しく接するようになっていた。


なのに、大切にしようとする一方で、前とは別の溝が生まれる。


あれからまた少し日が経って、瑠衣と一緒に誕生日を祝い直した。


ジュンからは会いたいと言われたが、でももうこの人を振り払ってまで行く勇気はない。


結局あたし達はこの街を離れようとはしなかったし、互いにさよならを言うこともなく一緒にいる。


けれどおばあちゃんに会い、あたしはまた少しだけ命を繋いでいたのだと思う。







「ねぇ、その指どうしたの?」


ある日のこと、瑠衣の左の人差し指の先に、絆創膏が巻かれているのを見た。


いつの間に怪我なんかしたのだろう、と思って聞いてみると、



「あぁ、転んだの。」


「あっそ。」


適当な言葉とみえみえの嘘に、若干呆れ返ってしまうが。


まぁ、どうせダサいことでもしたに違いない、と思い、あたしは無視してネイルを塗っていた。


何ひとつ気付けなかった、あの頃。



「あ、もうこんな時間だ。」


時計を見てから、ピンクに染まった爪に息を細く吹きかけた。


瑠衣の嫌いな桜の色をしているはずなのに、珍しく綺麗に完成したそれが嬉しくて、あたしは満足げに立ち上がる。



「じゃあ、ちょっと行ってくるね。」


荷物を持つと、百合、と呼び止められた。

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