渇望
「なぁ、どうせ遅くならねぇだろ?
俺もこの後ちょっと出るけど、すぐ終わるから、ついでに迎えに行ってやるよ。」


「マジ?」


「その後、たまには外で何か食おうぜ。」


「それ良いね。」


運転嫌いなのに、と笑った。


優れない空の色は、もうすぐ梅雨になる証。


行かなければならないと思うと気が重くなるけど、でも瑠衣との約束で少し救われる。



「じゃあ、終わったら連絡するわ。」


「はーい。」


手を振って、ひとり瑠衣の部屋を後にした。


向かう先は、クリスタルの事務所ビル。


そろそろ営業再開しようと思うから、その前に幹部でミーティングね、と言われて呼び出されたのだけれど。


あたしはそんなもんになった覚えもなければ、あの店に役職があったのも知らなかったが、でも行かなければならなかった。


続けるにしろ、辞めるにしろ、もう半端には出来ないくらいに関わり過ぎてしまっているから。


瑠衣は今でもあたしの答えを聞いては来ない。


それでもちゃんと送り出してくれるのだから、彼のことにしても、もう曖昧には出来ない時が来ているのだろうと思う。


雨が降りそうだった。


それはあの日、あたし達のタガが外れた心模様とひどく酷似して見えた。


あたしの爪の桜色は、一体何を表していたのか。

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