渇望
涙を拭った彼女は、精一杯で口元を上げて見せる。


けれどそれが余計に痛々しくて、あたしもまた、泣き笑いの顔になってしまう。



「あたし、馬鹿だよね。」


ぽつりと香織は呟いた。



「結局最後は、流星と離されちゃってさ。」


言いながらも、堪えるような顔だった。


例えアイツがどんな男であろうとも、それが彼女なりの愛し方だったはずなのに。


なのに結果として、全てを失ってしまったのだ。



「流星のこと、恨んでないの?」


問うと、彼女はふうっ、と息を吐き、宙を仰ぐ。



「あたしもアイツも弱かったんだ。
だからどっちかだけの所為じゃないし、遅かれ早かれこうなる運命だったんだよ。」


香織には似つかわしくない台詞なのかもしれない。


けれどこれが、彼女の本当の素顔なのだろう。


きっと、一緒に堕ちてあげることでは何も生まないと、香織自身も気付いていたのだろうけど、それでも弱さゆえにその道以外に選べなかったんだ。


あの街に、押し負けてしまったんだよね。



「ホントのこと言うとさ、百合なんか大嫌いだった。
無気力に生きてるだけの女のくせに、何であたしにないもんばっか持ってんのよ、って。」


香織は寂しそうな目をして続ける。



「そういうことしか考えられない自分が、もっと嫌いだった。」

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