渇望

輝いたもの

気付けば梅雨が終わっていた。


けれど、瑠衣の部屋の窓から見る景色は、どんなに季節が廻ろうとも、何の変化さえもない。


あたしはあれから、ここで暮らしていた。


いや、正確に言えば、この部屋で飼われている、と言うべきだろうか。


瑠衣が食べなければあたしも何も口にしないし、求めてくれば満足するまで何度でもそれに付き合ってあげていた。


あたしはこのまま行けば、香織と同じ道を辿るのだろうか、と思うと笑えてくるけど。








『珍しいね、百合が俺に掛けてくるなんて。』


電話口の向こうで、アキトはそう言って笑っていた。


あたしはそれを聞きながら、ため息ばかりをついてしまう。



『で、どうしたの?』


「ジッポのことよ。」


あぁ、と彼は、わざとらしく思い出したかのように言った。



『失くしたとばかり思ってたけど。』


「アンタ、よくそんな風に言えるよね。」


思いっきり人の隙を突いてバッグに忍ばせていたくせに、こうもヌケヌケと言われると、呆れ返るばかりだ。



『何だ、バレてたのか。』


悪びれる素振りさえ隠さず言った後で、



『で、喧嘩の種にでも活躍してくれた?』
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