渇望
ジュンも流星も、さすがは人気ホストらしく、色んな卓を忙しそうにまわっていた。


香織は不貞腐れたような顔で、ヘルプの子に絡んでいた。



「ねぇ、百合。
アンタさぁ、詩音さんのことどう思う?」


ふと、彼女は煙草を咥えて聞いてきた。



「…どうって、何が?」


「だってさぁ、正体不明じゃん?
まぁ、超綺麗だし、とりあえず整形はしてそうだけど。」


整形してるかは別として、影がある人なのは確かだろう。


別に詩音さんのことを探ろうとは思わないけど、香織は酔っているのか饒舌に語る。



「そういや聞いたんだけど。
詩音さんってこの街の出身なんでしょ?」


「…そうなの?」


「何かね、元々こっちで生まれ育ったけど、引っ越して別の街にいたんだって。
でも、何でかまた、戻ってきたらしいよ。」


そんな情報、どこまで信じれば良いのか、だ。


第一、嘘だらけなこの街で事実がどうであろうと、それほど意味のないことはない。


何より香織の本心ですら、決して見えることはないのだから。



「んでも、あの人苦手。」


「そんなのあたしに言われたって困るんだけど。」


「いや、そうだけどさぁ。」


人のことを悪く言うのが好きな彼女といると、やはり疲れる。


香織の指にあるブルガリの指輪が、怪しく煌めいた。


どうせ客に買わせた物だろうけど、そんなもので自分を着飾ることに、何の意味があるというのか。

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