渇望
「あ、詩音さんっていくつだっけ?」


「うちらの4つ上じゃなかった?
だから今は確か、23だと思うけど。」


言った瞬間、おばさんじゃん、と彼女は言う。


確かに香織だって美人だろうけど、詩音さんに向かって“おばさん”なんて言えるほどではないと思う。


が、あたしは何も言わなかった。



「本名ダサそうだよね。」


そう言って、香織はケラケラと笑っていた。


詩音さんが本名ではないのは知っているが、でもこれ以上悪口めいたものは聞きたくない。


無視してビールを流し込んでいると、流星が戻ってきた。



「なぁ、香織。
飲み足りないとか思わね?」


で、開口一番がそれだ。


どれだけ絞れば気が済むというのか。


こんな男に貢いで、さらに体まで繋いでる香織のことを、心底馬鹿な女だと思う。


何よりこの男は、他の女にも同じことをしていて、騙している分あたし達の仕事よりタチが悪い。


ジュンは馬鹿なフリをしているだけで、実際は思慮深く、物事の判断はいつも的確だから、さっさとこんな男を抜いてほしいと思うのが本音だが。



「百合、かおちゃんそろそろ止めてやれよ。」


戻ってきたジュンは目の前の光景に眉を寄せ、あたしへと声を潜めた。



「無駄だよ、ここまで酔ってたら。」


だけどもそれだけ返し、あたしは残り少なくなったビールを流す。


香織の孤独を紛らわす方法がそれしかないことくらい、わかってるから。


変なものに逃げるよりは、ずっとマシだ。

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